アルバムが出来た。「どう?」ときかれて、「別に」と答える。これは僕にとって大したことじゃないなんて意味ではなく、十分大事で、仕上がるまでのこだわりっぷりは、自分でも驚くぐらいで。サウンドにしても、自分の歌のテイクにしても、ちょっとしたミックスバランスにしても、これがこの曲の「オリジナル」だと決めるまでのこだわり。曲が出そろって曲順を決める時だって、本当にこれじゃ絶対結論なんか出せないって思うくらい悩んで。僕の歌をどういう風に届けよう。その自分からの発信の仕方を選びとることの難しさ。冷静に判断する目、というものとはかけ離れたこだわりの真只中で。そして僕はそれを正しい姿だと思ってこだわったし、今もそう思ってる。欲しい第三者の目はスタッフにたずねることで得ることができる。僕は僕のこだわりの中で、あるいは僕の中のオーディエンスの感性で作品を生み出すことに終始することができた。
 「どんな気分?」いろんな人が僕にきく。別に大したことないよ。
 「別に」って言うのはこういうこと。アルバムのひとつひとつの曲のTDが終わる。曲の完成。曲順がきまり曲間を決める。タイトルを決め、ジャケットのイメージをまとめ。そのひとつひとつが完成に向けての作業なんだけど、それはこいつが自分の手から放たれるための準備でもあって。前にもどこかで言ったことがあるけど、歌は僕が歌った瞬間に、それは受けとってくれる人のものになる。それでも僕の歌で。こいつもそう。僕が最後までこだわり抜いたあの一音は受け取ってくれる人にはなんてことのない1シーンかもしれない。そう考えめぐらす自分と、どうしてもそこにこだわりたい自分に折り合いをつけ、完成させる。この作品に一瞬とどまり、すでに見えている次の目的地に向かう僕には、完成したこと自体、格別に重要なのではなく、その直前までが異様に重要で、その直後がとても大切なので。
 だから、クールを装おうわけでもなく、アルバムが出来上がったこと自体は「別に」と。もっと簡単に言えば、作業最中のテンションの高さこそが僕のアーティストとしての居場所で、完成への感慨はきっと別の次元なのだと思う。
 2〜3日前に、アルバムフラッシュの編集に立ち会った。「ずいぶん曲が増えたな」そうつぶやいた言葉に、「そんな風にふりかえるのって初めてだ」とスタッフに言われ。そう言えばそうだ。去年の今は1曲もなかったんだよ。すごくひさしぶりに、いろんなことを思い出す。そういう時の、あれれなんかいろいろ思い出してきたぞ。そうそう。そんな風に感じたこともあったっけ。あの時の公園は気持ちよかったのに、なんで記憶の奥にしまっておいたのかな。とか。そういう、なんて言うんでしょ? 脳の中のいろんなものが芋づる式に繋がってズズズズズッと引き出されてくるのって面白い。匂いとか思い出すんだ。風とか。っていう話はまたの機会にして。
 そう。アルバムに12曲。収録して無いシングルカップリング曲が2曲と「Wonderful Life」という曲。もっと作れそう。作りたい。作らなくちゃ。そう思って作業開始する。その事自体が、アルバムを作り終えた僕の手ごたえ。このアルバムをみんなに届けた時に貰える感想が楽しみでしょうがない。それがもう一つの手ごたえになる。
 そうだ。不特定多数のあなたの心に届いた時、僕のアルバムは完成するんだとも言える。今日の僕の「生」が3ヶ月の時を経てどこかに届く。何年後かに初めて誰かに聴かれてその人に届く。
 「今」を生きることにしか興味のない僕が、その時も変わらず歌っていようと思う。「その時」が今の僕にはすごくリアルだ。
 
 たくさん手紙をもらいました。メールも。どのことばも全てちゃんと僕に届いてる。ありがとう。

5月末:F66会報内エッセイコーナー(060601発行)より

LOGS
1. 051400:F66会報内エッセイコーナー(060600発行)より
2. F66限定コーナー「MK MONOLOGUE」より-1
3. 2000年1月:クロダが指輪に刻んだことば
4. 072400:F66会報内エッセイコーナー(080600発行)より
5. F66限定コーナー「MK MONOLOGUE」より-2
6. 081100:黒田の初心表明
7. 110500: 赤坂BLITZ「LIVE FANTOM」にて。
8. 020501: F66会報内エッセイコーナー(020601発行)より
9. 032601:Iceman脱退に関するクロダの手紙全文

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